読書

篠田節子『インドクリスタル』上・下(角川文庫)

篠田節子の『インドクリスタル』という小説を読んだ。

この小説は日本の零細企業社長の藤岡が、通信機器の精密機械の製造のために、インドのとある地方にしか存在しない超高純度のクリスタルを求め、その過程で様々なインド人とふれあい、翻弄される小説である。

小説の中で、藤岡はクリスタルが眠る地域に住む部族や地主、現地のNGOや怪しいインドビジネスマンと関わりながら、必死の努力でクリスタルを得ようとし続ける。しかし、インド社会の商習慣や倫理観は日本とはあまりに異なり、藤岡は何度も騙され、信用を失い、そのたびに新しい方法を探し、強引な手を使ってもクリスタルを得ようとする。

この本を読んでいて、本当にもどかしいくらい藤岡はインドに翻弄される。読み手は(良い意味で)もやもや、いらいら、ドキドキさせられる。

さらに、藤岡は現地で過酷な過去を背負った、不思議な能力を持つ少女ロサと出会い、物語はロサを中心にも回っていく。ロサはカースト外の存在であり、幼少期は神のように扱われ、その後はテロリストに利用され、富裕層から奴隷のような生活をさせられ、、過酷な中で作られた性格は神秘で複雑。

藤岡はロサを救おうと努力する一方、ビジネス面ではインドの社会・文化に大きく振り回される。読者は藤岡の目を通してインド社会のカオスさ、異質さを嫌と言うほど思い知らされる。

インドに行ったこともないのに、あまりにリアルに描かれるために、自分がインド人に騙され、翻弄させられているように感じてしまった。

エンタメ×ビジネス小説としてとても良い本だった。

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