読書

山口周『仕事選びのアートとサイエンス−不確実な時代の天職探し−』(光文社新書)

『仕事選びのアートとサイエンス−不確実な時代の天職探し−』を読んだ。

山口周氏ボストン・コンサルティンググループを経て現在もビジネスの一線で活躍しつつ『武器になる哲学』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』など、本も多数出版されている方。

この本で書かれていることは、冒頭に書かれている通り、以下の言葉に集約されている。

仕事選びを予定調和させることはできない。

自分をオープンに保ち、いろんなことを試し、しっくりくるものに落ち着くしかない。

これだけ言われると「そりゃそうだろう」と言いたくなるだろうが、しかしその根拠や具体的な方法について丁寧に解説されているため、多くの人に価値がある本だと思う。

仕事選びは予定調和させることはできない

「仕事選びは予定調和させることはできない」とは、つまり、自分の頭の中で考えて未来のキャリアを設計し、そのギャップを埋めるようにスキルアップしたり人脈を作って行くような行動の仕方(=予定調和)は、仕事選びには向かないということ。

これについては、私もこれまでの経験上気づいていた。

目標達成の方法として、従来のキャリア論やコーチングの世界では、

理想を描く→現状とのギャップを分析する→それを埋める行動計画をする

という方法で未来を描き、計画を立てていた。しかし、実際には、仕事が天職かどうかはやってみなければ分からない。そのため、理想を描き、計画を立てて行動をはじめても、

「描いた理想が違っていた」「無理な計画だった」「やっぱり何か違う」

と気づいて、再度計画を立て治さなければならない、、となることが多い。

つまり、よく言われるように「好きなこと」「得意なこと」が重なる部分を仕事にしよう、というのは仕事選びのヒントにはなっても、それだけでは天職を見つけるのは難しいのである。

これは実感として多くの人が思っていることだと思うが、世の中には無限の可能性があるのに、自分の過去の経験は非常に限られている。想像できることも限られている。そのため、自分を掘りさげて見えてくる「好きなこと」「得意なこと」がカバーできる範囲は非常に限られていて、その中から仕事を選ぼうとすれば「天職」は見つかりにくい。

実際、頭の中で描いた理想に向かって行動して、その通りのキャリアを構築できたという経験を持つ人は少ないのではないだろうか。

人生の直線的な計画に意味はない、ということについて、著者は以下のように問いを投げかけている。

現在の自分とあるべき姿とを直線で結んでしまえば、そこには遊びもタルみも生まれません。しかし、人生というのは様々な出会いや事故、事件によって紆余曲折せざるを得ないものでもあります。顔の自分と、過去に自分が思い描いたゴールとを結ぶ直線の上から、現在の自分が外れていたとしたら、それを嘆き、再度その直線の上に自分を戻す努力を人はするべきなのでしょうか?

理想のキャリアを構築するための方法

では、どうしたら理想のキャリアを描けるのか?どうしたら理想の人生を歩めるのか?

「仕事はやってみないと分からない」だけでは、場当たり的な行動しかできないし、それでは天職に出会えるのは「運」でしかなくなる。

そこで著者が言うのは「良い偶然」を呼び込むための行動をしよう、ということだ。

そもそも、キャリアは偶然に左右されるところが大きい。そのため、偶然の出来事をより良いものにすることができれば、よりキャリアを構築できるはずである。

我々のキャリアは用意周到に計画できるものではなく、予期できない偶発的な出来事によって決定されます。

良い偶然を呼び込む方法として、著者は以下の2点を上げている。

良い偶然を起こす方法

良い偶然を招き寄せるためには「人脈の広さ」と「信用の深さ」が必要。

まず「人脈の広さ」とは何か。キャリアに繋がる偶然は「弱い絆(ウィーク・タイズ)」からもたらされるという。つまり家族や親しい友人などではない、親しくない人からキャリアの転機がもたらされるという。

では、単に知り合いを増やせば良いのか?

実はそうではない。著者は、人脈には3つの階層があると言う。

  • 第1階層:親友ゾーン
  • 第2階層:同僚ゾーン
  • 第3階層:知人ゾーン

この中で大事なのが、仕事を通じて己を知ってもらいやすく、信用を醸成しやすい同僚ゾーンだと言う。

そのための具体的な方法としては「毎日を丁寧に生きる」ことだと著者は主張する。

良い偶然をキャリアに結びつける方法

良い偶然をキャリアに繋げるためには、チャンスをつかみ取る能力を培っておくことが大事である。

そのスキルとして著者が上げているのが、

  • 最低限のロジカルシンキングスキル
  • 英語
  • 広範な分野の読書

である。

これだけ見ると普通に言われていることでは?と思うが、本の中ではその理由や詳しい内容が詳しく解説されているため、よく読むと納得すると思う。

まとめ

人生は直線的に設計できないということについては、自分で考えていたことでもあってので納得感はあった。

一方で、具体的な考え方や「良い偶然」を呼び込むための方法などについては、ありがちな話で新しい学びは特になかった。抽象的な話が多かったように思う。

しかし、「好きなこと×やりたいこと」でキャリアを考える、という常識にとらわれがちな人には考え方を改める良い本だと思う。

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