【雑感】現代における伝統文化の矛盾と継承する意義

現代における伝統文化を継承していく意義として、以前こちらの記事に書いた。

この考えをもう少し推し進めて、伝統文化を継承していくことには矛盾があり、その矛盾に自覚的になる必要があるだろう、ということを考えた。

ここでは、自分が関わる古武道を題材にして検討する。

伝統文化が持つ矛盾

「古武道」とは、空手、柔道、剣道といった競技化を進めた現代武道に対して、古来の技・精神を保存し継承していくことに特化し(そしてそこにアイデンティティを持っている)武道流派の総称と言って良いと思う。「古武道」は半ば固有名詞化しているため、こうした特徴を持った武道をここでは伝統武道と呼んでも良いと思うが、「伝統」を守る武道は根本的な矛盾を抱えていることを自覚しなければならない。

伝統武道が持つ矛盾とは、現代社会では直接的にはまったく必要とされていない技・精神を、時代の変化と関係なく保存・継承していかなければならないということである。本来、人間の持つ技能や精神的特性は、時代によって変化していくものである。社会が変化すれば、必要とされる技能や精神は変化していくためだ。しかし、伝統武道の場合は、それを社会の変化からある意味切り離して、保存していくことが求められる。社会は変化し、継承する人間もその変化する社会の中で生きていかなければならないのに、古来のある時点で生成された技・精神を同じ形で保存していかなければならない。

この点に、伝統武道は矛盾を抱えている。矛盾があるということは、それを何らかの形で解消する手段が必要であるということで、この論理を理解していなければ社会の変化によって、技・精神を正しく継承できなくなっていくだろう。

時代の流れと文化の変化

実際、武道の諸流派は近代化以降、社会に適応させようと競技になっていくものと、それとは逆に保存を重視していく古武道系に分かれた。

現代武道は社会の変化に合わせて変わっていったため、古武道の世界から見れば「あれはスポーツだ」と言われるようになり、一方古武道には人が集まりづらく、また技を試すことが難しいために、実際には使えない技を稽古している、形骸化していると言われる。古武道は伝統を残すことを前提に考えるならば、社会の変化の中でどうしたら技・精神を古来のまま残すことができるのか、という点についてもっと真剣に考えなければならない。

このような矛盾は、武道だけではなくあらゆる伝統文化に見られるものだと思う。そのため、それぞれの伝統文化は社会に適応したり、「保存・継承」の意義を強調して伝えていくことで対応しているように見える。たとえば歌舞伎のような鑑賞される伝統文化は、人の感性の変化に適応して、様々な変化を取り入れているようだ。

なぜ伝統文化を残すべきなのか

伝統武道の場合、こうした戦略をどのように取っていけばいいのだろうか。これを考える上で、そもそもなぜ武道は伝統を残していくべきなのか、ということを追求しなければならないように思う。そしてこれは、他の伝統文化についても同様の考え方ができると思う。

1つの理由として考えられるのは、古来の武道の世界で生成された技・精神はその時代・社会(命がけの戦いが身近であった)だからこそ生まれたもので、一度失われてしまえば今後復興することは非常に難しいだろうということ。

技について言えば、特殊な環境で数百年に渡って経験的に蓄積され、洗練された「型」を中心とした鍛練体系があることが重要だと考える。これは現代人が失ってしまった身体機能を発揮する一つの体系であり、失伝すれば復興が難しい。したがって、人間が行うことができた一つの身体的機能・技能の結晶を「文化」として捉え、その保存に意義があるということ。

精神についても同様のことが言える。

そもそもほとんどの現代人は「生死」ということから離れて生活しているが、江戸初期くらいまでの武士たちにとって戦争は日常であり、いつ命を失ってしまうか分からないものだった。そのため、その恐怖を乗り越えるために様々な思想が生まれ、口伝や伝書、鍛練法の形で継承されることになる。

このような状況は世界のさまざまな前近代的社会に普遍的に存在したと思われるが、日本の場合はさらにそれを文化として発展させようとしたところに特殊性がある。つまり、特殊な時代・社会だからこそ生まれた精神的文化が、伝統武道の持つ「精神」にあり、それはやはり失われれば再び復興することが難しい。

これは、観念的なものであるだけに、「技」の継承と比べてさらに意義を伝えることが難しいだろうが、やはり継承されるべき「文化」として価値のあるものだと考える。

まずは、武道という文化一般の中では特殊なものを取り上げて考えたが、文化一般(特に伝統的なもの)の意義として「なぜ継承させるべきなのか」ということは、これからも真剣に考えていきたい。

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